「ほら、どうぞ?」
ベッドの上で少しばかり服を乱したご主人様が煽情的な笑みを浮かべながら俺を待っている。
その事実と初めて見るカインの艶姿にロビンはのぼせ上がっていた。
けれどせっかくお許しをもらったのだし、ご主人様を待たせたくはない、とぎくしゃくしながらベッドに登る。
カインはただクスクスと笑い、右手を差し伸べロビンを抱きしめた。
ロビンは耳まで真っ赤になるほど緊張していたが、カインが余裕なのはエリックと経験したからだ。と勘違いし、ぐいと顔を突き出すとカインの口にキスした。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・。・・・・・・・ふふっ」
した、はいいがそれ以降全く進展せず、唇を触れ合わせただけで硬直してしまったロビンを見てカインは笑い出してしまった。
「ご主人様っ!笑わないで下さいぃー。」
情けなさと羞恥で涙目になるロビンに、「ごめんごめん」と口だけで謝りながらカインは手をひらひらさせている。よっぽど可愛かったらしい。
「ははははっ!」
「ご主人さまぁー!」
最初こそべそをかきそうだったロビンだが、やがてきっと何かを決意したようにカインを見据えると、「おや」と目を丸くするカインを押し倒した。
ぼすっ
「おぉ」
何か感心したようなカインの声にも構わず、ロビンはそのまま首筋にキスをしながら、シャツのボタンを外し始めた。
が、それでもカインは余裕を保ったままでロビンは夢中になってキスをする。
けれど
(ご主人様の首筋・・・・・すごくいい香りがする・・・・・)
香水をつけているのかそれともボディソープの香りなのか、カインの首筋からはとても涼しげでみずみずしい、爽やかな香りがした。
いったんそういうことに気が付いてしまうとダメで、ロビンは次々に
(うわ、綺麗な肌。あんなに細身なのに栄養状態悪いわけじゃないのか・・・。唇も柔らかかったし、ひー!ちょっと吸っただけでこんなに紅くなる・・・!)
といったことばかりを考え出してしまった。そして、思いのほか派手に紅くなったカインの肌を見て少し驚き、ちらりとカインの目を伺い見る。するとそこには優しい目で自分を見つめる、カインの深い深い夜のような目とあってしまい。ロビンはそのまま固まってしまった。
「・・・?ロビン、どうした?」
ふいに固まってしまったロビンを見たカインは、訝しげな目をして体を起す。
優しく髪を撫でながら、ロビンに声をかけ続けるとやっとロビンが、蚊のなくような声で何事か呟いた。
「・・・・・た・・・・・」
「ん?悪いけど、もう一回。なんて?」
「・・・・・・・・・した・・。」
「ロビン、ごめんもう一回言って。」
「こっ腰が!!・・・・ぬけちゃい、ました・・・・・。」
「え・・・・・・・。」
ひたすらに恥ずかしいロビンと、思いもよらない答えに珍しく硬直するカイン。
よもやヴィラにいながら、この程度で腰が抜けるやつがいるとは思わなかったカインは、どういってやればいいのか。と頭を常にないスピードで働かせていた。なにせこれまでにこんなにシャイな相手を見たことがなかったから。
だからしたいことをすることにした。
「ロビン。」
「?・・・うっわ!ご主人様?」
穏やかな笑みを浮かべながら、カインはロビンをぎゅっと抱きしめた。そしてわたわたと意味不明に手を動かすロビンの手をそっと掴むと、そのままロビンを押し倒す。
「やっぱり、こっちのほうがしっくりくるんだが。ロビンはどう?」
答えがわかりきってるだろうに、クスクス笑いながらそんなことを聞いてくるカインは、本当は子どもっぽいのではないだろうか?そんなことを思いながらも、やはりそこは惚れた弱みというやつですぐに「まぁいいや」と思い、恥をしのんで頷くロビンだった。
結論。
「やっぱり、可愛がってもらう方がいい・・・・・・」
心地よい疲労感の中、大好きなご主人様の腕枕で眠りに付く時、ロビンはぽつりとこう呟いた。
それを聞いたカインは、ロビンを起さないように必死で笑いを堪え続けたのだが・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・
掌にキスは懇願。というのは有名なキスの定義です。
「額へのキスは親愛のキス。頬へのキスは厚情のキス。目蓋の上は憧憬のキス。唇の上は愛情のキス。掌なら懇願のキス。手の甲は尊敬のキス。首と腕なら欲望のキス。さてその他は皆狂気の沙汰」(一部曖昧)
―― 了 ――
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